「タイヤロックして、逃げられないようにしたい」「車で前を塞いで、困らせてやりたい」「ナンバーをSNSで晒したら、もう来なくなるのでは?」
自分の駐車場を勝手に使われたら、そう考えたくなるのも無理はありません。SNSや動画サイトには、迷惑駐車の車を動けなくしたり、大量の貼り紙で囲んだりする投稿もあります。見ている分には痛快でも、同じことを自分で行うのはおすすめできません。
迷惑駐車をした側に問題があることと、こちらが車へ実力行使をしてよいことは別だからです。懲らしめるつもりの対応が、修理代の請求や新たなトラブルを招き、かえってこちらを不利にすることがあります。

※この記事は、私有地、月極駐車場、店舗や事務所の来訪者用駐車場で、土地の所有者や管理者が対応する場面を想定した一般的な案内です。公道上の違法駐車とは対応が異なります。また、個別の状況に対する法的判断を示すものではありません。
まず結論。車には触れない、動けなくしない、晒さない
迷惑駐車を見つけたときの基本は、次の3つです。
- 車両を傷つけたり、勝手に動かしたりしない
- タイヤロックや別の車で、出庫できない状態にしない
- ナンバーや運転者の顔を、制裁目的でネットへ公開しない
自分の権利が侵害されていても、法的な手続を取らず、実力で権利を回復しようとする行為は「自力救済」と呼ばれます。最高裁判所は、私力の行使は原則として禁止され、緊急でやむを得ない特別な事情がある場合に、必要な限度でのみ例外的に許されるとしています。
通常の迷惑駐車で「自分の土地だから、何をしてもよい」とはなりません。
迷惑駐車にやってはいけない7つの対応
1. タイヤロックやチェーンで車を動けなくする
「逃げられたら証拠も取れない」「話が終わるまで帰したくない」と考え、タイヤロックを付けたくなるかもしれません。
しかし、車を走行できない状態にする行為は、車本来の機能を使えなくするものです。物理的な傷が見当たらなくても、器物損壊などの問題になる可能性があります。取り付けるときにホイールや車体へ傷が付けば、修理代を請求されるおそれもあります。
さらに、ロックを外すまで車を使えなかったとして、別の損害を主張される可能性もあります。相手を逃がさないための道具が、相手に反論や反対請求の材料を与えてしまうのです。

2. 自分の車や障害物で、出入口を塞ぐ
無断で停められた車の前へ自分の車を置く、重い障害物で囲む、門扉を閉めて出られなくする。車体に触れない方法なら問題ないように見えますが、これも相手の車を意図的に使えなくする実力行使です。
相手が戻ってきたときに口論になりやすく、無理に出庫しようとして接触事故が起きる危険もあります。「車には傷を付けていない」だけでは、トラブルを避けたことにはなりません。
3. 勝手にレッカー移動する、別の場所へ動かす
邪魔な場所から少しでも早く移したいところですが、所有者の承諾や法的な手続なしにレッカー移動することも、自力救済として問題になる可能性があります。
移動中に傷が付いた、移動先が分からず車を使えなかった、保管中に物がなくなった、といった別の争いも起こり得ます。まして、公道や遠くの土地へ移したり、長期放置だからと処分したりするのは避けてください。
緊急車両の通行を妨げるなど、すぐに安全を確保する必要がある場合は、自分で動かす前に警察や施設の管理責任者へ状況を伝えます。長期の放置車両を撤去したい場合は、弁護士などへ相談し、所有者への請求や法的手続を検討します。
4. タイヤの空気を抜く、傷を付ける、剥がれない貼り紙をする
車体へ傷を付ける、タイヤの空気を抜く、部品へ手を加えるといった行為は、言うまでもなく避けるべきです。
注意書きも、接着剤や強い粘着テープで貼ると、塗装やガラスに跡が残ることがあります。大量の紙を貼り付ける行為も、方法によっては車の使用を妨げたり、原状回復に費用がかかったりします。
警告文書を置く場合は、車両を傷つけない方法を選び、設置前後の状態も写真に残します。「警告した証拠」と「警告するときに傷を付けていないこと」の両方を記録しておくためです。
5. 「罰金を払うまで帰さない」と高額な金銭を迫る
駐車場で見かける「無断駐車は罰金○万円」という看板。書いてある金額なら、その場で必ず徴収できるとは限りません。
実際に請求できる金額は、看板の表示、合意の有無、駐車時間、周辺の駐車料金、現実に生じた損害などによって判断が異なります。「罰金」は本来、国が刑事罰として科すものでもあります。
金を払わなければ車を動かさない、勤務先や家族へ知らせる、ネットで晒すなどと告げて支払いを迫れば、その迫り方自体が新たな問題になり得ます。損害を請求したい場合ほど、感情的な言い値ではなく、記録を基に専門家へ相談する方が確実です。
6. ナンバーや運転者の顔をSNS・動画サイトで晒す
迷惑駐車の写真を撮ることと、その写真をネットへ公開することは別です。
ナンバーだけを公開したら直ちに違法になる、と一律に決まるわけではありません。しかし、運転者の顔、住宅、勤務先、位置情報などと組み合わせたり、「常習犯」「犯罪者」と断定して拡散したりすれば、名誉やプライバシーを巡る争いになる可能性があります。
車の所有者、登録上の使用者、そのとき運転していた人が同じとも限りません。車両を確認しただけで、特定の個人の行為だと決めつけるのは危険です。
証拠として残した写真は、管理者、警察、弁護士など必要な相手へ見せるために保管します。制裁のために公開しても、正式な請求や相談が進みやすくなるわけではありません。むしろ、投稿した側の言葉や意図も記録として残ります。
7. 運転者を待ち伏せし、怒鳴る、囲む、鍵を取り上げる
運転者が戻ってきたとき、安全に話せる状況で、冷静に移動をお願いすることまで避ける必要はありません。
一方で、複数人で取り囲む、怒鳴る、身体へ触れる、鍵や所持品を取り上げる、車の前へ立って発進を妨げるといった行為は、口論や事故につながります。相手が興奮している、車内から出てこない、危険を感じる場合は、直接対決を優先しないでください。
なぜ「相手が悪いのに」こちらが不利になるのか
迷惑駐車が先に始まったとしても、その後のこちらの行為がすべて正当化されるわけではありません。
過激な対応をすると、話の焦点が次のように変わってしまいます。
- 無断駐車の事実より、車へ付いた傷の原因が争われる
- 駐車による損害より、車を使えなかった損害を反対に請求される
- 移動のお願いより、脅された、囲まれたという訴えが中心になる
- 繰り返しの記録より、SNSへ投稿した言葉だけが拡散される
「どちらが先に悪いか」という感情の勝負ではなく、それぞれが何をしたかが別々に見られます。だからこそ、自分から相手へ新しい口実を与えないことが大切です。
迷惑駐車を見つけたら、触る前に記録する
懲らしめる代わりに、まず残したいのは次の情報です。
- 車両全体と駐車区画、出入口などの位置関係
- ナンバープレート
- 確認した日時と場所
- 契約者が使えなかったなど、その時点で確認できた影響
- 車体や周囲に、もともと見えていた傷や異常がないか
- 管理者、警察への相談や、警告文書を置いた経過
一度撮っただけで終わらず、同じ車両を後でも確認した場合は、その都度、別の記録として残します。ただし、2回の写真があるだけで、その間ずっと停まっていたと断定はできません。確認できた事実と、推測は分けて扱います。

具体的な撮影項目は、「無断駐車されたら? 対応の基本は、とにかく『記録』です。」でも紹介しています。
警察や弁護士へ相談するときに、記録が役に立つ
私有地への無断駐車は、公道上の駐車違反と同じように取り締まられるものではありません。ただし、盗難車の疑いがある、危険な行動がある、公道にはみ出して通行を妨げているなど、状況によって警察の対応範囲は変わります。
事件や事故など緊急のときは110番、緊急ではない困りごとの相談は、最寄りの警察署または警察相談専用電話「#9110」を利用します。相談するときは、場所、時刻、車両の特徴、現在の危険性を具体的に伝えてください。
長期間の放置車両について所有者の確認や撤去を進める場合も、放置場所、期間、写真などが必要になります。損害の請求、所有者の調査、車両の移動や撤去を具体的に検討する段階では、弁護士などへ相談してください。
いちばん効くのは、派手な仕返しではなく記録です
タイヤロックや大量の貼り紙は、その場では「やり返した」気持ちになれるかもしれません。しかし、次に同じ車が来たとき、役に立つのは派手な動画ではなく、いつ、どこで、どの車を確認し、どんな警告をしたかという記録・履歴です。
写真がスマートフォンの写真一覧に散らばっていると、前にも来た車か、警告後も繰り返している車かを探すのに時間がかかります。ナンバー、写真、確認日時、メモ、警告履歴を車両ごとにまとめておけば、次の対応を感情ではなく事実から考えられます。
迷惑駐車に対して強いのは、相手の車を動けなくすることではありません。こちらが余計な問題を起こさず、必要な手順へ進める記録を残しておくことです。